紙の細部に宿る〜印刷の紙の話〜
Munakata.H
子どものころの疑問
幼いころ、私は絵を描くのが好きで、夕食のあと、チラシの裏面にいろいろな絵を描いていました。
今はあまり見かけませんが、当時のチラシは片面印刷のものが多く、もう片面の余白は、子どもが気兼ねなく絵を描くには最適でした。
ある時、お絵かき用のチラシを集めていると、書きやすい紙とそうでない紙があり、また同じようでも微妙にサイズが違うチラシが混じっていることに気づきました。
子どもながらに、「全部書きやすい紙で同じ大きさでいいのに。なんでだろう」と思ったものです。
今、こうして印刷に関わる仕事に就き、その答えに気付けるようになったのはちょっぴり不思議に感じます。
最も印刷に身近な時代に
近年、紙を使った印刷がWEBに押しやられてどんどん衰退していると言われますが、一方で印刷会社が全国規模のTVCMをしたり、コンビニで気軽に写真やパソコンで作った原稿のプリントをすることが一般的になるなど、最も印刷が身近な時代とも言えます。
そこで今回は、知っているようで知らない?
印刷の紙について触れてみたいと思います。
紙の種類(ツルツル・しっとり・サラサラ)
印刷用の紙は大きく分けて、3種類あります。
コート紙
コーティング剤が塗られているため、表面が「ツルツル」していて光沢があり、印刷をするととてもきれいな色がでます。写真やカラーのイラストの多い印刷物に最適なので、スーパーや量販店などのチラシに多く使われています。
一方で、ツルツルしている分、鉛筆での書き込みがしづらく、ボールペンの書き込みやスタンプの押印をすると、乾きが遅く、ついつい触ってしまい手を汚してしまったりなどのデメリットもあります。
マットコート紙
コート紙と同じく、表面にコーティングがされていますが、光沢が抑えられているので「しっとり」としていて、色がきれいに出る一方で、落ち着いた雰囲気のある仕上がりになります。
コート紙より書き込みはしやすいです。
上質紙
いわゆるコピー用紙と同じ「サラサラ」した質感の紙で、コーティングはされていません。
そのため、印刷をするとインクが紙に染み込み、色は少しくすんだ仕上がりになります。商品の写真などで色味を重視する場合は向かないですが、反射が少なく落ち着いているので、文字を読むには適しているといえます。
書き込むにはもっとも適しています。
印刷方法による紙サイズの違い(白フチあるなし)
コピーやプリンターの普及で、B4やA4といった紙のサイズの違いは一般的に知られていますが、新聞折込やスーパーに置いてあるチラシを見ると、一見B4サイズに見えるのに、周りが白いフチで囲んである分、やや大きいサイズのものを見かけることありませんか?
一般的に、印刷はオフセット印刷という方法が取られているのですが、その方法は大きく分けて2種類あります。
実は、それが紙のサイズの違いにあらわれるのです。
輪転印刷
大量印刷用として作られた輪転機を使用し、巨大なトイレットペーパーのようなロール状の紙を使うことが特徴です。ロールの直径が1mくらい、重さ600kg以上、1本の長さ約9km。
印刷機も大きいものですと全長30~40m、さらにすごいものですと、高さ4階建のビルに相当する巨大なものもあります。
簡単に言いますと、トイレットペーパーに高速で引っ張り、そこに高速でハンコを押し、ドライヤーで乾かし、機械で自動的に断裁と紐での梱包をするイメージです。
機械の仕様にもよりますが、1時間に数万枚もの印刷が可能ですので、主に新聞や数万枚以上のチラシの印刷に使用されます。
平版印刷
こちらは枚葉機という機械を使います。
名前の通り、1枚ずつカットされた紙を機械に通す、品質を重視する印刷する方法です。
輪転機に比べると機械のサイズは小さく、約2~20メートルくらいで、輪転機が大量のチラシの印刷に対応しているのに対し、こちらは名刺からチラシ、パンフレット、ポスターなどあらゆる印刷シーンで使用されています。
輪転機は比較的薄手の紙を使うことが多いのに対し、枚葉機は薄手のものからポストカードなどの厚手のものまで対応できます。
この二つの印刷の違いの一つに断裁方法があります。
平版印刷では「化粧断裁」、輪転印刷では「袋断裁」という方法をとっています。
化粧断裁とは四方を断裁し、正規のサイズに仕上げる方法で、基本的には人間の手による作業です。
一方、袋断裁は周囲に1cm程度白フチが出る断裁方法で、基本、機械により自動化されており、輪転機の特徴であるスピードを生かすべく、断裁の時間短縮のために、この方法が取られています。
つまり、ざっくり言うと、フチのあるチラシは大きな印刷機を使い、たくさんの枚数が印刷されている、とういうことになります。
印刷と高級陶磁器
いかがでしたでしょうか。
私が幼い頃にお気に入りだった紙は、おそらくは枚葉機で片面に印刷されたサラサラした上質紙のチラシだったのだと、今にして見れば思うわけです。
現在のチラシの多くがツルツルのコート紙を使用していますので、個人的には少し残念です。
ただ、その「コート紙」。
表面にコーティングされている素材には「カオリン」という白い鉱物が使われているのですが、実は、このカオリン、
元々は陶磁器で有名な「景徳鎮」や「マイセン」に使われており、その特徴である透明感のある白さはこの鉱物によるものでした。
つまり、チラシは、昔は秘伝で高価だったであろう素材を使用した、発色の良い特別な紙で、毎日毎日、宝物のような綺麗な色をお届けてしている、とも言えるのです。
ちょっと大げさだったかもしれませんが、何気なく当たり前に見ている印刷物もそんな見方次第で、実は豪華で素敵なアートなんだな、とほんの少しだけでも感じていただくことができれば幸いです。
〈Copywriter・Hiroaki Munakata〉