印刷は点でできている
Munakata.H
鑑定してもらうその前に
「ざんねーん」という声にうなだれる男性。
高価なものとして長く大事にしてきた掛け軸が実は、近年に印刷されたものでその価値がほとんどなかった。
当人にとっては残酷な状況をみんなで和やかに眺める、というお宝を鑑定する某TV番組。
この状況、私たちにすると、よく見れば印刷かどうかはある程度わかるのになぁ、と思うのです。
プロだからでしょ?と思われるかもしれませんが、実は誰でも「鑑定」することができるのです。
印刷は点でできている
実際、美術品買取専門店でも版画だと思って持ち込まれたものが、実は印刷されたポスターだったということはよくあるそうです。
今回は、絵画としての版画と現代の印刷の作り方の違いを簡単にご紹介します。
木や石、金属の板などで作った版(型)を使って絵の具(インク)を紙にうつすという工程はどちらも同じです。
みなさんは子供の時に、木の板や芋などに彫刻刀を使って模様や文字を彫る、版画を行った記憶があるかと思います。
バレンを使ってごしごしと紙を擦り、じっくりとインクを染み込ませたものです。
葛飾北斎や歌川広重などの浮世絵が江戸の世間で、そして世界で有名になったのも、多色刷りの浮世絵版画(錦絵)によるものです。
たくさんの色を表現するにはたくさんの版を作り、何度も色をうつす必要があります。
それに対して現代の印刷は、一言で言うと「点でできた4色版画」。
近年は家庭用プリンターの普及で皆さんも耳にしたことがあるかと思いますが、
印刷はCMYK = C:Cyan(シアン)M:Magenta(マゼンタ)Y:Yellow(イエロー)の3色にK:Key Plate(黒)の4つのインク使い、多彩な色(カラー)を表現しています。
たった4つのインクでどうやって写真のようなたくさんの色を出すことができるのでしょう。
それが、「点」なのです。
印刷は4つの色の点を特定の角度で、点の大きさなどを調整し、重ね写したものです。
すると万華鏡のような模様になるのですが、これを離れて見ることで、全体にきれいに色がついたように見えるのです。
石や陶磁器のかけらを使う「モザイク画」や紙を小さくちぎって貼り付ける「ちぎり絵」のように近くで見るとわかりにくいのに、離れてみると一つの絵として完成している、そんな感じでしょうか。
点がなくても
つまり、手元にある大事にしているものが、もし、点でできている場合は残念ながら印刷によって作られたもの、そうでない時は………ということになるのです。
身の回りのカラーの印刷物、チラシやカレンダーなどがあれば、特に写真の部分をルーペなどを使い、じっくり見てみてください。
万華鏡のような小さな色の点が見えるかと思います。
ただし、この技術が発明されたのは今から100年以上前のこと。
現代では、ルーペで見てもわからないくらい高性能な印刷や、点を使わない印刷もありますので、全てがこの限りではありません。
ですので、点が確認できなかったからと言って早合点することなく、勇気を出してしかるべき鑑定に出すのがよろしいのかと思います。
また、仮に印刷だったとしても、別の誰かが作った贋作とは違い、観賞をする分には基本的に本物と変わらないと思いますので、印刷だからだめ、ということなくこれからも愛でていただきたいと思います。
ちなみに、番組内では、誤って印刷がずれた切手が高い金額になることがあります。
10円切手が800万円!のようなドキドキする鑑定のその一方で、「印刷ミス」という言葉にひそかにドキドキしてしまっていることは内緒です。
色に関する過去のコラムです
こちらをご覧ください
〈Copywriter・Hiroaki Munakata〉