簡素(カンソ)「魚にまつわる物語」
Watanabe.Y
プレゼンテーションzen 第5章 シンプルであることの大切さ
ビシャは自分の店を開き「私たちはここで新鮮なら魚を売っています」という看板を出した。すると彼の父がやって来て、こう言った。「『私たち』ってつけると、お客さんより売り手の方を強調しているみたいだ。その言葉はいらんよ」。そこで看板は「ここで新鮮な魚を売っています」と書き換えられた。
すると彼の兄が通りがかってこう提案した。「『ここで』っていうのはなくてもいいんじゃないか。それは蛇足だよ」。ビシャはこれに同意し、看板を「新鮮な魚を売っています」に書き換えた。
次に姉がやって来てこう言った。「『新鮮な魚』だけでいいんしゃない? 売ってるのは当たり前だもの。それ以外はありえなきでしょう」
その後、隣人が立ち寄って開店祝いの言葉を述べ、こう言った。「店の前を通れば、魚が本当に新鮮かどうかは誰にでもすぐわかるよ。わざわざ『新鮮な』ってつけると、まるで魚の新鮮さに疑問の余地があって、それを弁解しているみたいじゃないか」。こうして、看板にはただ「魚」と書かれることになった。
休憩を終えて店に戻ってきたとき、ビシャはかなり遠くからでも、匂いだけで魚の存在を認識できることに気付いた。看板が読めないくらい離れた所でもそうだった。彼は「魚」という言葉さえ必要ではなかったことを知ったのである。